コラム
- 2022.01.31
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事業所内保育所とは?企業が設置するメリットと開設するまでの流れを紹介
女性の就業率の増加に伴い、全国的に共働き世帯が増加しています。保育所を設置している企業は復職率の向上や離職率の低下、人材の獲得に有利なので、事業所内保育所を設置する企業が増えています。
ただ、企業が保育所を開設するには、満たすべき要件や補助金の申請などやるべきことが多くあります。
この記事では、そのような事業所内保育所の開設方法を知りたい企業の担当者に向けて、事業所内保育所の具体的なメリットや設置要件、開設の流れや収支例について紹介します。
事業所内保育所とは?
事業所内保育所とは企業が設置する保育所のことで、企業や病院などで働く従業員の子どもと、保育を必要とする地域の子どもに保育サービスを提供します。
平成27年に施行された「子ども・子育て支援新制度」の中の「地域型保育事業」に含まれる形態のため、企業が新たに開所するには設備及び運営について自治体が定める認可基準を満たす必要があります。認可事業として運営する事業所内保育所は、設置基準を満たす代わりに、国や自治体から補助金が交付されます。
かつては認可外の事業所内保育事業も存在しましたが、H28.4以降、内閣府が主導する「企業主導型保育事業」に引き継がれました。
今でも自治体の単独補助により運営される認可外の事業所内保育事業が一部存在しますが、ケースとしては少なく、基本的に「事業所内保育事業」といえば認可が必要な企業内の保育事業のことを指します。以下が事業所内保育所の基準の概要です。
形態 | 事業所内保育事業 |
---|---|
認可 | 市区町村の認可が必要 |
設置基準 | 「児童福祉施設の設置と運営に関する基準」など |
対象年齢 | 未就学児 |
補助金 | あり |
運用費用 | 公費+保育料+事業主負担 |
企業が事業所内保育所を設置するメリットとは?
企業が事業所内保育所を設置すると、どのようなメリットがあるのか解説します。
産休・育休利用者の復職率の向上
事業所内保育所は、産休・育休利用者の復職率の向上と離職率の低下に貢献します。
育児中の従業員は、保育園の送り迎えや子どもの不調時にすぐ駆け付けられないなどの悩みがあります。事業所内保育所を設置することでそういった問題を解決でき、従業員の満足度を上げることができます。
事業所内保育所により従業員の体力的、心理的負担を軽減できますし、保育の受け皿が確保されていることで安心して産休・育休を取得できます。さらに、保育が原因の復職延期や時短勤務、離職などを回避できます。
人材の採用に有利
事業所内保育所は新卒採用や中途採用において、以下のような理由で有利に働きます。
- 産休・産後を経て復職するキャリアプランを描きやすい。
- 保育所経営は社会貢献度の高い事業のため、企業へポジティブなイメージを与えられる。
- 福利厚生の充実によって、就職へのモチベーションが高まる。
園舎デザインにこだわったり独自の教育プログラムを展開したりすることで、さらに人材に対してアピールすることができます。
補助金により経営が安定
事業所内保育所を運営する場合、毎月の運営費に対して国や自治体から補助金(地域型保育給付)が交付されます。
毎月の運営費を補助金で賄えば、企業の負担は少なく済みますし、新しい事業として収益を上げられる可能性もあります。
補助金については、以下のページで詳しく紹介しています。
共同で運営できる
事業所内保育所は、複数の企業と共同で設置できます。
単独運営の場合、自社の従業員の子どもや周辺地域の園児が少ないと定員割れのリスクが大きくなります。他企業と共同で出資すれば運営の負担は少なく済みますし、自社で満たせない定員数を賄うことも可能です。
委託運営を選択できる
認可外保育所として運営する事業所内保育所は、自主運営と共同運営のどちらも運営を業者に委託することができます。
自主運営だと委託費はかかりませんが、教育カリキュラムや保育士の育成プログラムなどを自社でゼロから構築するのは大変です。委託運営には以下のようなメリットがあります。
- 保育士の採用や人件費のコントロールが不要
- 従業員の育成や労務管理などの業務を削減
- 自治体との交渉、補助金や助成金の申請書類作成を任せられる
- 病児・病後児保育など質の高い保育サービスの提供
- 英会話やリトミックなど教育プログラムの充実
保育所経営は、経費の7~8割を人件費が占めます。「マイナビ中途採⽤状況調査2020年版」によると、保育業界分野の1人当たりの求人広告費は83.9万円となっています。
運営を委託してしまえば、保育士は委託会社所属のため、企業自ら保育士の採用や定着に労力を割かなくて済みます。
スクルドアンドカンパニーは100園の運営実績がある委託会社です。事業所内保育所における採用コストや、保育士不足による問題を解決します。開設サポートも承っておりますので、お気軽にご相談ください。
事業所内保育所の設置基準
厚生労働省「事業所内保育施設設置・運営等支援助成金のご案内」を元に、事業所内保育事業で保育所を設置する場合の基準について解説します。
ここで紹介している内容は、国や自治体が定める要件の一例です。自治体によっては条件を上乗せして設けている場合もありますのでご注意ください。
認可外保育所として運営する企業主導型保育事業については、以下のページで詳しく紹介しています。
事業主の基準
事業所内保育事業の制度を活用して保育所を設置する事業主は、以下の要件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主、または事業主団体である。
- 助成金の審査に必要な書類などを整備、保管している。
- 都道府県労働局長が審査に必要と認める書類などを求めに応じて提出または提示する。
- 労働局の実地調査や、審査に協力する。
- 育児・介護休業法に規定する育児休業及び所定労働時間の短縮措置について、労働協約または就業規則に定め、実施している。
- 次世代育成支援対策推進法第12条に基づく一般事業主行動計画の、策定・届出、公表および従業員への周知を行っている。
自社がこの基準に当てはまるかを確認しましょう。
子どもの年齢と連携施設の確保
事業所内保育事業の対象の子どもは未就学児です。
従業員の子どもは、事業者が直接雇用していなくても、業務委託契約を結んでいる人やグループ企業の職員なども含めることができます。
在籍園児は卒園していくため、その後も適切な教育と保育の場を提供できるよう、認定こども園、幼稚園、認可保育所、ナーサリールーム、企業主導型保育施設のいずれかの施設と連携する必要があります。
※令和6年度まで努力義務とする経過措置期間が設けられています。
連携施設は事業所内保育事業に対して「保育内容の支援」「代替保育の提供」「卒園後の進級先の確保」などの支援を行います。
参考URL:厚生労働省「地域型保育事業における連携施設の確保に関するガイドライン」
子どもの人数と地域枠の設定
事業所内保育所は、以下のように従業員の子どもに加えて定員の一定の数を地域枠として開放しなければなりません。
定員区分 | 地域枠の定員 | |
1名~10 名 | 1 名~5名 | 1名 |
6名・7名 | 2名 | |
8名~10 名 | 3名 | |
11 名~20 名 | 11 名~15 名 | 4名 |
16 名~20 名 | 5名 | |
21 名~30 名 | 21 名~25 名 | 6名 |
26 名~30 名 | 7名 | |
31 名~40 名 | 10名 | |
41 名~50 名 | 12名 | |
51 名~60 名 | 15名 | |
61 名~70 名 | 20名 | |
71 名~ | 20名 |
なお、地域枠は自治体が利用者を決定し、事業者は基本的にその受け入れを拒めません。
参考URL:事業者向けFAQ(よくある質問)【第6版】
通常保育以外の保育サービス
通常保育以外の保育サービスを実施すると、自治体が審査する際に加点してもらえることがあります。通常保育以外とは以下です。
延長保育事業 | 在籍園児で通常の利用時間以外でも保育を実施する。 |
一時預かり事業 | 通常保育とは別に確保したスペースにおいて、一時的、断続的に乳幼児の保育を行う。 |
休日保育 | 在籍園児で休日に保育を必要とする子供に必要な保育を行う。 |
参考URL:千葉市「事業所内保育事業整備・定員増事業者募集要項」
自社の勤務スケジュールや近隣の保育ニーズを考慮して、追加の保育サービスを検討しましょう。
保育施設を設置する場所と面積
保育施設を設置する場所は、継続利用が見込まれる場所で次のいずれかに設置されている必要があります。
- 事業所の敷地内
- 事業所の近接地
- 従業員の通勤経路(駅ビル、駅に近接するビル、通勤に便利な場所など)
- 従業員の居住地の近接地(社宅、団地など)
また、必要となる施設と設備、子ども1人に対する広さは以下のように定められています。
必要な施設・設備 | 概要 | 子どもに対する面積・設置数 |
乳児室 | 満2歳未満の子を保育する部屋。他のスペースと明確に区画。 | 1.65 ㎡以上/1人 |
保育室 | 満2歳以上の子どもを保育する部屋。 | 1.98 ㎡以上/1人 |
便所 | 手洗設備も必要で、他のスペースと明確に区画。 | 子ども20人に対し1つ |
調理室 | 調理設備が必要で、条件により外部搬入も可能。 | 定員分の給食を供給するために必要な広さ |
職員の配置基準
国が定める「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第(三十三条)」をベースに、保育型と小規模型(A型・B型)の配置基準が定められています。
こちらが、国の配置基準です。
年齢 | 人数 |
0歳児 | 子ども3人に対し保育士1人 |
1~2歳児 | 子ども6人に対し保育士1人 |
3歳児 | 子ども20人に対し保育士1人 |
4歳児以上 | 子ども30人に対し保育士1人 |
次に、事業所内保育事業の利用定員と職員配置数です。
種別 | 利用定員 | 職員資格 | 職員数 | |
保育型 | 20人以上 | 保育士 | 国の定めている基準と同じ ※原則として常時2人以上の保育士を配置 |
|
小規模型 | A型 | 19人以下 | 保育士 | 国の配置基準+1人 |
B型 | 1/2以上が保育士 | 国の配置基準+1人 ※保健師、看護師・准看護師を保育士とみなす特例あり |
ちなみに、小規模型のA型・B型の違いは職員資格です。A型は全員に保育士資格が必要なのに対し、B型は1/2以上が保育士資格を有していれば基準を満たしていることになります。
事業所内保育所の開設までの流れ
ここでは、千葉市「事業所内保育事業(令和4年4月1日開園)の整備事業者の募集について」を参考に、申請から認可までの流れを紹介します。
順序 | やること | 概要 |
---|---|---|
1 | 社内アンケート | 定員、運営形態を検討する。 |
2 | 設置場所、物件の選定 | アンケートを元に設置場所を選定。 |
3 | 園長採用 | 申請書類に園長の情報が必要なので採用をする。 |
4 | 申請書類提出 | 物件の概要(住所、建物の概況等)、図面(改修前のもので可)の申告、予定定員の申告などが必要。数十通に及ぶので用意する。 |
5 | 審査結果通知 | 9月中旬ごろに結果が通知される。 |
6 | 補助金交付申請 | 結果通知後速やかに必要書類を提出する。 |
7 | 施設整備 | 内装工事、備品準備など。完了検査に間に合うようスケジューリングする。 |
8 | 保育士採用 | 事業開始に十分間に合うようスケジューリングする。 |
9 | 入園説明会 | 2月中旬~3月上旬に行う。 |
10 | 自治体の完了検査 | 3月上旬に行われる。 |
11 | 認可手続き | 3月下旬に行う。 |
12 | 事業開始 | 4月上旬 |
事業所内保育事業の収支例
厚生労働省「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報値>【修正版】」を元に、事業所内保育事業の収支状況を紹介します。
科目 | 金額(千円) ※122施設合計 |
構成比率 | |
収益 | 保育事業収益 | 162,195 | ‐ |
その他収益 | 1,474 | ‐ | |
特別増減による収益 | 4,888 | ‐ | |
費用 | 人件費 | 120,249 | 76.8% |
事業費 | 11,549 | 7.4% | |
事務費 | 18,123 | 11.6% | |
その他の費用 | 5,105 | 3.3% | |
支払利息 | 148 | 0.1% | |
法人本部帰属経費 | 1,463 | 0.9% | |
収益計 | 168,557 | 100.0% | |
費用計 | 156,637 | 92.9% | |
収支差 | 11,920 | 7.1% |
事業所内保育所(122施設)の収支差率は7.1%でした。私立保育所(2,167施設)の収支差率は2.3%、介護事業の収支差率は2.4%(令和2年)であることから、採算性の高い事業と言えるでしょう。
参考URL:介護給付費分科会「令和2年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)」
まとめ
国は女性活躍推進法の施行など、就業率の上昇に積極的に取り組んでいます。女性の就業率は、内閣府「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」によると、令和7年に82%まで増加するとされています。
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